企業ブランド風評被害のリスク
出所者を雇用するには、リスクが伴います。どれだけ企業側や、採用担当者が、出所者を手厚く迎えたとしても、残念ながら、出所者の再犯を100%防ぐことはできません。なかでも風評被害のリスクが大きいです。
雇用した出所者が逮捕され、ニュースに出る
事情聴取などでパトカーが会社敷地に出入りする
報道関係者の取材対応に追われる
「犯罪者を雇用する企業だ」と、顧客や元請から批判される
従業員の士気低下
など、企業として大きな損失の可能性があります。
出所者を雇用する企業のメリットは?
では多大なリスクをとってまで、出所者を雇用しているメリットは何でしょうか?実際に出所者を長年雇用している経営者の言葉から引用します。
お好み焼きの千房
北九州のガソリンスタンド 野口石油
出所者を雇用する経営者に共通するマインドは
単なる人手不足の充当ではない
覚悟がいる
再犯や裏切りはある
会社一丸となって迎える
応援してくれる人が集まる
「一般の求人で応募してくる人の中にも、過去を隠した出所者がいるだろう。そのことを知らずに雇用するか、正直にいった人を雇用するか。挫折も失敗もない人なんて、いない、自分は正直な人と一緒に働きたい。だから雇用する。」
公的制度が活用できる場合
出所者を雇用する場合、活用できる制度があります。
協力雇用主に対する刑務所出所者等就労奨励金
1年間で最大72万円が支給される場合も。企業の報告義務や、出所者の要件も細かいので、採用前にハローワークや保護観察所に問い合わせる必要があります。
公共工事等の競争入札における優遇制度
出所者を雇用する「協力雇用主」となった場合、総合評価落札方式による評価において,ポイントを加算する取組が広がっています。法務省、都道府県、市町村での入札に有利になる制度です。
出所者の採用面接で確認すべきポイント
出所者の採用面接で確認すべきポイントは3つあります。
(1)罪名「どんなことをして前科がついたのか」
罪名によって、企業としてとるべきリスク管理や対策が違います。
例えば、窃盗と詐欺は「他人から金品を奪う」という共通点がありますが、犯人像は全く異なります。「出所者に再犯させない体制づくり」のアプローチが異なるのです。
窃盗の場合
金庫や倉庫や社用車の鍵の管理体制を見直す
従業員のロッカールームの施錠強化
現金を一人で持たない仕組みづくり
身体能力が高い場合が多い(70代でマンションによじ登れる人もいる)
詐欺の場合
経理や会計などを複数チェックする仕組みづくり
単独行動ではなくチーム作業に配属する
話術が巧み、接客が得意
(2)刑名、刑期「いつまで罪を償うのか」
雇用する人が、いつ裁判を受けて、いつ刑が終わるのかは重要です。
例えば
懲役3年で満期出所した人 → すでに刑期は終わっている。自由の身。
懲役3年執行猶予5年 → 判決から5年経たなければ、刑は終わらない。
罰金刑以上の犯罪(酔って人を殴ったなど)があれば、刑務所に直行する。
とくに、交通事故や交通違反の前科がある人を雇用する場合、免許取消歴や欠格期間もかならず確認しましょう。無免許状態だと知らずに、社用車を運転させた場合、無免許運転幇助という罪で、使用者側が責任を問われることもあります。
出所者を雇用する方法は?
(1)「受刑者等専用求人」を出す
「受刑者等専用求人」は受刑者や少年院在院者などを対象にした専用の求人で、一般の求職者には非公開です。ハローワークに申し込みますと、「コレワーク」という、受刑者等の採用に関する法務省の相談機関が、雇用に向けた橋渡しをします。
(2)全国の保護観察所で、協力雇用主に登録する
出所者の雇用に理解がある雇用主を「協力雇用主」と呼びます。登録するには、地域の保護観察所で手続きをする必要があります。受刑者専用求人との違いは、受刑したことがない「保護観察付き執行猶予」中の人や、保護観察中の少年なども 雇用の対象となります。
この記事を書いた人
元保護観察官:安彦和美
16年間法務省に所属し、刑務所出所者・ご家族・雇用主様との面談や家庭訪問を、年平均500回で行い、延べ5000回以上の相談歴があります。退官し、出所者雇用を専門とする国家資格キャリアコンサルタントとして独立しました。
▼出所者の雇用に関するご相談は、最寄りのハローワークや保護観察所にお問い合わせください。
▼出所者の雇用に関する執筆・ライティングのご依頼は、現在多忙のため対応できません。当記事リンクや引用などをご利用ください。