この記事では、法務省で16年間勤務し、刑務所出所者など5000人以上の再就職を指導してきた、元保護観察官から、前科をのりこえる方法をお伝えします。
前科者の就職を成功させるポイント
- インターネット情報は消せない→経歴や前科をオープンにする
- 罪名や刑務作業を、就職面接で伝える方法
- 就職サポート制度:ハローワークに相談窓口がある、協力雇用主もいる
- 前科をのりこえる仕事さがしを応援します
前科とは?
犯罪をしたことがある履歴です。
罰金刑以上の犯罪をすると、検察庁と市町村に、履歴(=前科)が記録されます。前科は、もっとも厳しく管理されている個人情報で、本人を含め、一般市民は絶対に見ることができません。取り扱う職員も、ごく限られています。職業に就く際、採用側で前科を調査できるのは、医師や教員など国家試験や、公務員・議員など、法令に規定があり、前科があると合格できない職業に限られています。
前科は消えます
前科がある人でも、刑期が終わった後、再犯なく過ごしていると、刑法の規定により、前科は消滅します。(刑法27条及び34条の2:刑の言渡しの効力の消滅)罰金刑以下の前科は、5年経過すると消えます。懲役や禁錮など、刑務所で服役した前科も、刑期が終わってから10年以上、犯罪がなければ、前科は消えます。
インターネット情報に注意
検察庁や市町村での、前科記録が消滅した後も、消えないのはインターネット上の情報です。事件や事故を起こし、実名報道された場合には、インターネット上に情報が載っていることが多く、これは刑が終了しても、前科が消滅しても消える事はありません。就職に影響する場合、インターネット上の情報が障壁になります。
採用面接で、名前を検索される?!
「就職面接の最中に、面接官が、応募者の名前を検索して、どんな情報がヒットするか調べた」というケースもありました。インターネット検索で、事件・事故の情報がヒットすると、面接中に「あなたは過去に何かやったことがありますか?」と質問されて、動揺したという人もいました。
前科者の就職活動:攻略法2つ
(2)前科をオープンにして就職活動する
結論として、オススメは(2)前科をオープンにすることです。
理由1 人手不足
13年ほど前科者の就職支援をしていましたが、近年、前科者の就職は非常にスムーズでした。反対に「前科者を雇いたい」と申し出る企業がとても多くありました。
理由2 履歴書が書きやすい
前科を隠して就職したい場合、ネックになるのは履歴書や職務経歴書の書き方です。逮捕から拘留、受刑中などのブランクを、どう表現するかが問題になります。前科をかくそうとすると、履歴書では、うまくごまかせても、面接でつじつまを合わせることができず、ボロがでて、不採用になるも多いです。前科をオープンにして、応募した場合、採用される確率は下がるでしょう。ですが、前科を隠して就職すると、後々ばれないかビクビクしながら働き続けることになり、結果的に離職率が高くなります。前科をオープンにして、今までの事情や、あなた自身を理解してもらったうえで、就職できるほうが後々トラブルになる可能性が少ないのです。
罰金刑の前科がある人の就職活動は?
罰金刑の言渡しから、5年未満であれば、履歴書の賞罰欄に記載することとなります。先ほど述べた通り、罰金刑執行後、5年経つと前科が消滅しますので、5年経過したら、前歴をオープンにする必要はありません。「就職できますか?」とよく聞かれますが、答えは「できます」。ただし「前科のない、一般の方でも、希望の企業や職業に就くのは簡単ではありません。罰金刑がある分、ハンディを埋めるために、一般の方の100倍努力する、くらいの気合いが必要です」とお答えしています。
面接でどのようにアピールするか?
前科をオープンにして就職活動した場合、就職の面接ではどのように話せばよいでしょうか。シンプルにすべてを包み隠さず話す方が、誠実な人と思われます。面接官から聞かれたら、この3点をシンプルに伝えましょう。
・どういうことをやったか(窃盗、暴力、薬物、殺人etc)
・どんな事情があってやったのか(当時の状況)
・今後は心を入れ替えて頑張る意欲
雇用する側が心配するリスク
前科者を雇いたいという企業が、リスクと考えているのは、どのような事でしょうか。
・売上金の着服や、会社の資材の持ち出し等
・社内での対人関係のトラブル、暴力沙汰
・元請企業や周囲の影響、近隣の風評の悪化
雇用主は、このようなことを心配しています。なので、心配されないように、就職面接でアピールできれば就職確率は上がります。たとえば「今まで乱暴な事で捕まった事はありません」とか「私は盗みをしたので、お金に関する仕事でない仕事を与えてください」とか「刑務所で、徹底的に掃除するよう仕込まれましたので、トイレ掃除もゴミ拾いもやります」など、正直に伝えてみましょう。世間一般では「前科者=怖い」とイメージしている人が多いので、このように伝えると、前科者であっても、就職後の働く姿をイメージしてもらいやすくなります。
受刑歴がある場合
刑務所に服役していた人は、担当していた刑務作業について話しても良いでしょう。刑務所内で洋裁をやっていた、コツコツと作業を積み重ねることができる、規律違反はなかった、新人を教えるポストに就いていたことなど話してみることも、有効です。一般の人は刑務作業を知りませんので、「へえ、そんなことができるの」と驚かれます。刑務作業も、職務経歴の1つとしてアピールしましょう。
前科者もハローワークで相談できる
ハローワークには、前科者を専門に就職支援する部門があります。ハローワーク窓口で言うのが抵抗があるなら、事前に電話をして「前科があるので、専門相談員に話したい」と伝えると、専門スタッフにつないでくれ、詳しい案内をしてもらえます。
「協力雇用主」という制度がある
安倍内閣の再チャレンジ応援政策の一環で、前科者を積極的に支援する企業を「協力雇用主」と呼んでいます。全国に前科者を積極的に受け入れている企業が多数あります。どんな企業が「協力雇用主」なのかは、ハローワークや保護観察所で確認することができます。
協力雇用主の、就職面接を受けるときは「雇った前科者の勤続年数」を確認しましょう。前科者を大量に採用したことを、アピールする企業もあるのですが、実態は、定着率が悪くて大量採用になっている場合もあります。他方、1人しか採用実績がなくても、採用されて長年勤められるような、前科者の受け入れ態勢が手厚い企業もあります。協力雇用主の実績は、採用人数ではなく、定着率や勤続年数に注目しましょう。
この記事を書いた人
元保護観察官:安彦和美
16年間法務省に所属し、刑務所出所者・ご家族・雇用主様との面談や家庭訪問を、年平均500回で行い、延べ5000回以上の相談歴があります。退官し、国家資格キャリアコンサルタントとして独立しました。
※現在、前科に関する個別のご相談は、受け付けておりません。最寄りのハローワーク、保護観察所の担当の保護観察官や保護司等にご相談ください。
※執筆案件は、現在お引き受けできません。この記事のリンクを引用いただけましたら幸いです。